こんな場合、あなたならどうしますか?

交通事故の示談介入

自家用普通乗用車を運転中、交差点で出合い頭の衝突事故を起こした。相手車両も普通乗用車で、若い男が運転していた。
事故は双方とも怪我がなく、しかも車の破損状況も同程度であって、双方ともに不注意があったことから、「お互いに自分の車は自分で修理する」という了解のもとに別れた。
ところが、しばらくして、一見して暴力団風の2人連れの男が会社に訪れ、「あの事故の怪我で、相手の男性は入院するはめになった。相手の男性に頼まれて話し合いに来た。補償金300万円と俺達の手間賃200万円を払え」とすごんで来た。
本件交通事故については、事故の現場で話し合いがついたこともあり、警察への事故届出はしていなかった。


1.交通事故は、必ず警察に届け出る。
多発する交通事故をめぐっては、いろいろなトラブルが発生しがちですが、鵜の目タカの目でカネを得ようと狙っている暴力団にとって、そうした交通事故は恰好の対象となっています。
それだけに、不幸にして交通事故の当事者となった場合には、暴力団員やいわゆる「事件屋」、「示談屋」などと呼ばれている人達の介入を招かないよう、的確な事後処理に努めることが大切です。
また、暴力団員等が介入してきた場合にも、相手方に決して乗ぜられることのないように、平素から対応要領について研究しておくことも必要なことです。
道路交通法第72条では、交通事故が発生した場合には、その車両の運転者等は、その事故が人身事故、物損事故の如何を問わず、直ちに最寄りの警察署(現場の警察官、交番、駐在所を含む)に届け出なければならないと定めています。
交通事故は、どんな事故でも必ず警察に届け出て、その事故を「公」にしておくことが、あとあとのトラブル防止にも、また、暴力団等からつけ込まれないためにも絶対に必要な、「ドライバーの常識」です。
ましてや、運転免許証の停止や取消処分を恐れたり、ややこしい示談交渉を避けたいために、交通事故の現場で「現金での解決」を図ったりすることは、大怪我のもとになります。
設問の場合、相手方は警察に届出をさせないために、あえて「お互いに自分の車両は自分で修理する」ということにして、とりあえず引き下がった可能性も考えられます。



2.毅然たる態度で相手の確認をする。
交通事故が発生した場合、前述のとおり必ず警察へ届け出なければなりませんが、そのためにも、運転免許証その他で相手の身元をはっきりと確認することが大切です。
その場合、相手が暴力団員と判ったら、誰しも恐怖心にかられます。それでなくても彼らは、ことさら暴力団員であることを誇示して、自分の非を居丈高(いたけだか)に否定したり、乱暴な口調で威嚇し、カネを得ることを画策したりすることを常とう手段としています。
また、それとは反対に、自分に非があるような場合に、自分の身元を秘めたままその場を収め、後日、逆に被害を過大に申し立ててカネを要求するなど、巧妙な手口を使うこともあるようですので、注意が必要です。
相手が暴力団員であるからといって、現場でうかつに約束事をしたり、身元確認を怠ったりすることのないよう、気を引き締め冷静に対応するよう心掛けましょう。
設問の場合も、やって来た相手は何者か、その身元を確認することが先決となります。そして、日時は経過していますが、速に警察に交通事故の届出をすることが肝要です。そのことによって、事故の態様や相手当事者の怪我の有無やその程度を、警察の手によって明らかにすることができるわけです。


3.組事務所に出掛けたり、1人での対応はしない。
暴力団員等は、示談等の交渉をする場合、人目につくところや相手方に有利となる場所を避け、あくまでも自分に有利な場所で交渉しようと企みます。
彼らの指定する場所や、彼らの組事務所等での折衝は、行く前から勝負がついたのも同然です。交渉は相手の土俵でなく、自分の土俵で行うことを常に心掛けるとともに、1人で対応(面接)せず、複数で対応(面接)することが肝要です。
そうした場合、彼らは、「お前らは関係ないだろう」等と脅し、当事者1人との交渉を狙って来ます。
しかし、「私1人では間違いがあっても困りますから」などと毅然とした態度で彼らの要求を拒み、必ず複数で対応するようにすることが大切です。


4.安易な妥協は絶対にしない。
彼らは、「悪かったと言う念書を書けば許してやる」等と、あたかも念書で丸く収めるような素振りによって言葉巧みに念書を書かせたうえ、その実、後日その念書をもとに過大な要求をするという悪らつな手段をとることもあるようです。
どんなことがあっても、「一筆書け」という要求には応じてはなりません。念書を書けば半ば負けたも同然となります。


5.指定暴力団員の示談介入行為は禁止され、中止命令の対象になっていることを念頭に対応する。
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)第9条第1項13号は、指定暴力団員が、他人から依頼を受け、その暴力団の威力を示して示談交渉を行い、損害賠償として金品等を要求することを禁止し、また、同法第11条第1項では、公安委員会はその指定暴力団員に対して、そうした行為の「中止命令」を発することができることを定めています。それに従わなかった場合は、もちろん処罰されるわけです。
暴対法で禁止されている示談介入行為とは、(1)指定暴力団員が他人(当の暴力団員の親族は他人の中に含まれません)から頼まれたものであること、(2)事故の原因者(事故を直接起こした者だけに限りません)に対する示談介入行為であること、(3)「報酬」を得、または得ることを約束しての示談介入行為であること、(4)「損害賠償」として金品を要求すること、の要件が必要となっています。
設問の場合、相手が指定暴力団員であれば、暴対法で禁止されている示談介入行為に当る疑いもあり、中止命令が発せられる可能性もありますので、速やかに警察に届け出ることが大切です。また、そうした禁止行為に当たる疑いが有る無しにかかわらず、不当な要求があった場合警察に相談することもときに必要なことと思われます。


6.不当な要求には、法的対抗手段を検討する。
設問のような場合、示談介入してきた相手が指定暴力団員でなくても、彼らはいわゆる「プロ」ですから、交渉事に不慣な者は正しい対応ができず、彼らの術中にはまってしまう危険性があります。
そこで、自動車の任意保険に加入していればその保険会社に連絡し、保険会社に交渉を依嘱したり、あるいは弁護士に交渉を依頼することなどを検討する必要もあると思います。
また、島根県交通事故相談所や松江市役所市民相談窓口、島根県暴力追放センター等にあらかじめ相談をして、適切な対応に努めることもお勧めします。


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