こんな場合、あなたならどうしますか?

些細なことに因縁をつけられて困惑

ある雨の日、スーパーの駐車場で、差していたこうもり傘の柄が、何かのはずみで駐車中の高級乗用車ベンツのボディーに当たってしまった。
幸い、その乗用車に傷はつかなかったが、その乗用車に乗っていた暴力団風の中年の男が降りてきて、「乗用車を故意に叩いた。謝れ」などと思いもかけない因縁をつけてきた。
故意に当てたものでないことを極力弁解し何回も謝罪したが、相手の男は全く聞き入れてくれず、30分位も執拗に怒鳴りちらされた。
その後、これまでに3回、会社に面会を求めてきたが、会社の受付係で、不在を理由として面会を断ってもらっている。
前後の状況から判断して、相手の男は、お金を目当にしていると思われるので、お金で解決を図ってしまうかどうか、その対応に迷っている。


1.金銭で解決を図ろうとするなど、安易な対応は結局命とりになる。
基本的に、暴力団等との対決は、彼らとのいわば「攻めぎ合い」であり、屈伏するか毅然として対応するかという戦争に他ならないものと心得るべきものです。
設問のように、些細なことに因縁をつけられて困惑してしまうといったことは、日常生活の中で案外ありがちなことでありますが、そうした小暴力事案であっても、安易に金銭で解決しようとすることは、相手方の理不尽な行為に屈伏してしまうことであり、まさに戦争における敗北であり、結果的に大変惨めで大きな犠牲を払うことになってしまいます。そもそも、相手方に金銭賠償をしなければならない場合は、(1)加害者の故意または過失による (2)違法な行為によって、(3)相手方に損害が生じ、かつ、(4)その損害と行為との間に相当因果関係があるときに限られます。
設問では、こうもり傘の柄が乗用車のボディーに当ったとはいっても、傷は付かなかったというものであり、結局、相手方に対して、多少の精神的なショックを与えたとしても実損がなく、法的には金銭賠償の必要はない事案と認められます。
こうもり傘の柄を、乗用車のボディーに当てた事実そのことに対し、誠意をもってお詫びをすれば十分な事柄です。
これまでにも説明しましたように、彼らの常套手段は、相手が弱いと見れば、その要求を次第にエスカレートさせてくることです。このような場合に、金銭で事を解決しようとすることは、相手の術中にはまる最も拙劣な方法です。結局、骨の髄までしゃぶられることになってしまいます。
相手方の理不尽な要求には、絶対に応じないという毅然とした態度こそ、事案解決の第一条件であり、決着の早道であることを肝に命じておくべきです。
また、このような場合に、相手方が事案解決を口実として、「詫び状」の類を書くように要求することがあります。
これに応じますと、と角その「詫び状」等が一人歩きして、損害賠償請求の証拠として悪用されることがありますので、注意することが大切です。


2.トラブルの現場に警察官の派遣を求める。
設問のように、相手方がことさらに因縁をつけてきているときには、現場での相対での話し合いによる決着は難しいと見なければなりません。
こうした場合、その場の状況を逸早く判断して、現場に警察官の派遣を求めることも考えなければなりません。
ただし、相手方は警察へ通報されることを最も怖れ、警戒していますので、「これは民事問題だ、警察は介入できない問題だ」などと暗にけん制し警察への通報を極力阻止しようと努めるはずですが、それに怯んではいけません。設問の場合、ことさら因縁をつけるなど、純然たる民事問題の域を越えています。
警察官の現場派遣を求めることは相手方の不法な要求を抑圧する有効な手段であるばかりでなく、後日に備え、相手方の乗用車に損害を与えていないことを確認しておいて貰う意味合もあります。


3.会社に来た相手方に居留守を使うことは不可である。
特別な理由がある場合を除いては、会社に面会に来た相手方に対して、居留守戦術を使うことは避けなければなりません。
設問のように、3回も居留守を使えば、相手方に「自分を恐れ避けている」との心証を与えてしまうことは必然で、ますます相手方を増長させる原因になりますし、何らの解決にもつながりません。
さらに、居留守を使っていたことを知られた場合には、「居留守を使うとは何事だ、不誠実だ」などと難詰されて、それが新たな火種となって、逆に窮地に追い込まれてしまうことになりかねません。
こうした、新たな落度をことさら取り上げて追求し、本来の目的を達成するという、いわゆる「すり替えの論理」を巧みに駆使してくるのが、暴力団員等の一流の交渉手段となっていることを知らなければなりません。
もともとが、相手方に対して、損害賠償等する必要のない些細な事案ですから、相手方に堂々と応接し、かつ、「仕事に差支えますのでお引き取り下さい」と明確に伝え、以後の面会も一切断った上で、退去を要求することが最良の方法です。
それでもなお要求に応じず退去しない場合は、速やかに警察に通報すべきです。
警察としては、不退去罪等で措置することになります。


4.相手方が指定暴力団員であった場合の措置
設問のような事案があった場合、「2」で説明したように、警察官の現場派遣を要請することに留意すべきですが、同時に以後の支援を依頼しておくとともに、相手方の身許確認を早急に実施して貰うことも重要です。
相手方がどのような人物であるかを見極めることによって、概その相手方の意図を掴める場合が多く、また、相手に応じた対応策が可能となるからです。
身許確認の結果、相手方が指定暴力団員であった場合には、その後の状況の展開いかんによっては、「暴力団員による不当な行為等の防止等に関する法律」(暴対法)に基づく、公安委員会から中止命令を発出してもらうことも可能となります。
すなわち、暴対法第9条第1項第2号は、指定暴力団員が、指定暴力団の威力を示した上で因縁をつけて、「人に対し寄付金、賛助金、その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」を暴力的要求行為として禁止し、中止命令の対象としています。


5.脅迫罪、恐喝未遂罪等刑事事件として警察の捜査を依頼する
設問のような事案が発生した場合、相手方が暴力団員やそれに類する者であればあるほど、後難等をおそれるあまり、警察への被害の申告、被害届の提出などについては、と角ちゅうちょしがちですが、それでは相手方をいよいよ増長させるだけです。
相手方が、指定暴力団員である無しにかかわらず、警察への積極的な被害申告、被害届の提出が事案解決の早道となります。今、警察では、事件の被害者保護にも積極的に取り組んでいます。
たとえ、それが刑事事件として問擬できない場合であっても、警察としては、警察官職務執行法に基づく犯罪防止のための警告措置等もとれるわけです。


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