暴力団ミニ講座

32) 対立抗争
暴力団相互の対立抗争は、全国的にみると、毎年どこかで凝りもせず繰り返されてきているのが現状です。
しかも、こうした対立抗争によって、これまで、多くの一般市民がその巻き添えとなったり、市民生活そのものが脅威にさらされるなど、多大な犠牲を強いられてきました。
こうした暴力団の対立抗争は、時代劇映画などでもお馴染みになっている通り、博徒や的屋などのヤクザ社会が形成された江戸時代から既に「出入り」と呼ばれた対立抗争が発生をみており、暴力団と対立抗争は暴力団社会においては、宿命的なものとなっています。

それでは、なぜ暴力団は、世論の強い反発を受けながらも、対立抗争を繰り返し起すのでしょうか。それには、不法集団である暴力団それ自体の特殊な体質そのものに原因があるからです。

もともと、暴力団の日常的な活動は、いわば法の支配するらち外の社会で行われており、そこでは、暴力的な力のみがその社会を支配する唯一の原理となっています。
そして、本講座「5.縄張り」でも説明しましたように、そうした実力の源泉となっているものが、いわゆる縄張りであり、縄張りこそそれを支配するその集団の強弱、親分のもつ権威と権力の程度が明確に表現されるものとなっています。
すなわち、縄張りは、それを支配するその集団の独占する家産であって、縄張りが広がれば、経済的には親分の収得は増大し、ひいては子分の取得分も多くなり、また、親分の暴力団社会における権威はますます高められ、同時に子分の地位も上昇し、より安定したものとなる理屈ですから、縄張りの拡大は、どの暴力団にとっても最大の集団目標となっているわけです。そこに、縄張りの拡大をめざす集団と、これを死守しようとする集団との間に対立抗争の緊張関係を発生させる危険性(要因)が常に存在することとなります。

一方、本講座「4.暴力団の掟とヤクザ気質」の項で説明しましたように、暴力団員は、何にも増して原始的で粗暴な力をその信条とし、そしてまた、自分に対立するもの、自分のほかに存在するものを認めまいとする不断の攻撃的態度を保持しています。その結果として、既存勢力に対抗する新しい勢力が生れると、さらに新勢力を倒そうとする勢力が生れるというように、個々人の間でもその地位の上昇をめぐって常に対立を繰り返すという習癖があります。

このように、暴力団社会では、本質的に対立抗争は避けられない構図となっており、暴力団の対立抗争を根絶するためには、暴力団そのものを壊滅させる以外に方法がないとも言えるわけです。
現に、これまでに発生した対立抗争をその原因別に調査してみますと、

●縄張り争いによるもの
一定の縄張りを対象としたものと、縄張り内における個々の利権を対象としたものとに区別される。
●勢力争いによるもの
一定地域において勢力的に優位の態勢を維持獲得することを目的をするもので、例えば、組員の獲得をめぐる争いなど。
●内紛によるもの
暴力団内部においては、親分は絶対的な支配権を有しており、その地位の継承問題は組員の最大の関心事であり、その跡目相続をめぐるもの。幹部相互間における組員または利権の獲得ならびに勢力の拡大をめぐり内部的に抗争するものなど。
●その他
上記のような要因がほとんどを占めているが、その他として面子をめぐるもの、女性関係をめぐるものなど

等となっています。
それでは、近年の対立抗争の発生実態はどのようになっているのか、過去20年間の発生状況の推移を見ると、次のようになっています。

◆対立抗争事件の発生状況の推移

区分/年次 H2H3H4H5H6H7H8H9H10H11 H12H13H14H15H16H17H18H19H20H21
発生件数 27 12 12 12 11 4 9 6 11 11 5 5 7 7 6 6   3 1 1
発生回数 146 47 39 77 44 28 29 54 48 46 18 81 28 44 31 18 (15) 18 6 4
  うち銃器使用回数 118 47 29 75 38 28 25 40 39 41 16 71 21 32 19 11 (8) 12 3 1
死者数 16 5 5 4 4 1 2 3 4 3 1 4 2 7 4 2   8 3 2
  うち一般被害者 5         1   1                   1    
負傷者数 29 10 9 11 10 1 8 20 20 12 9 15 14 15 12 4 (6) 8    
  うち一般被害者 1             2 1     1     2          
※注:一般被害者には取締警察官を含む

この表を見ても判りますように、暴力団の対立抗争は、一度び発生すると、一回限りの殺傷事件に止まらず、数次にわたって反覆敢行されるという特徴があり、また最近は、こうした対立抗争では、ほとんどがけん銃等の銃器が使用されるところから、死傷者の数も多くなる可能性が高く、しかも一般住民が巻き添えになるケースもあり大きな社会不安を引き起すのが常態となっています。
特に、こうした対立抗争では、通常各々の組事務所が、謀議や相手に対する出撃拠点として使用されるところから、勢い、相手方からの攻撃対象にされることも多く、組事務所の周辺住民にとっては、日常生活もままならない恐怖と不安の毎日が続くといったことも一再ならず発生しています。

そうしたことから、平成3年5月に成立した暴力団対策法は、「指定暴力団等の相互間に対立が生じ、当該対立に係る指定暴力団等の事務所が、多数の指定暴力団員の集合場所や謀議、指揮命令、連絡場所として、または当該対立抗争に供用されるおそれがある凶器その他の物件の製造や保管場所に供されており、もしくは供されるおそれがあり、これにより、付近の住民の生活の平穏が害され、または害されるおそれがあると認められるとき」は、公安委員会が期限を限って、その事務所の使用禁止を命ずることができることとしました。
これによって暴力団員総数の約91パーセントを占める指定暴力団等の対立抗争においては、従前に比べ、対立抗争をしている組事務所周辺の市民生活の平穏をある程度は確保することができる見通しとなりましたが、これとても万全とは言えません。
要は、先にも述べましたように、暴力団を絶滅して、対立抗争の根を断つことが最も必要なことではありますが、現実論としては、これは容易なことではありません。さすれば、先ずは自分たちの地域内に暴力団の組事務所を設置させないようにして行くことが、次善の策として必要かつ肝要なことと思われます。
又、対立抗争とは言えないまでも、暴力団等によるとみられる銃器発砲事件も、毎年全国のどこかで発生しています。最近10年間のこれら銃器発砲事件の発生状況は次表の通りとなっています。

◆暴力団等によるとみられる銃器発砲事件の発生状況の推移

区分/年次 H12H13H14H15H16H17H18H19H20H21
発砲事件数(件) 92 178 112 104 85 51 36 41 32 22
  うち対立抗争によるもの 16 71 21 32 19 11 0 12 3 1
死者数(人) 17 24 18 28 15 7 2 12 8 6
負傷者数(人) 24 20 20 27 12 6 8 7 5 8
※注:「暴力団等によるとみられる銃器発砲事件」とは、暴力団構成員等による銃器発砲事件及び
    暴力団の関与がうかがわれる銃器発砲事件をいう。


Copyright© 松江地区建設業暴力追放対策協議会, ALL RIGHTS RESERVED.