吉田拓郎&かぐや姫Concert in つま恋

by すだりん

第1章


 【朝の静岡】(2006.9.23、am4時半ごろ)
 午前3時50分。タイマーの音で目覚めると、ちょうど浜松駅を通過するところでした。着替えて顔を洗って、荷造りを終えると午前4時20分。安来のおじの個室をノックすると、彼はすでにスタンバイして、ヘッドフォンでiPodらしきプレイヤーを操作していました。もうかぐや姫でも聴いて予習を始めているんかな。そう思いながら下車。あの母娘の姿もありました。ここでどこかに乗り継ぐのでしょう。
 僕らは浜松方面の在来線に乗り換えると、40代、50代の普段着のおじさんたちが目立ちました。ははぁ、彼らはほとんどがつま恋組だな。午前5時にこんなに多くの人がポロシャツで出勤するはずないもの。同5時半過ぎ、掛川駅に到着。やはり、ほとんどの人が降り立ちました。駅の南口に立ってみました。夜が明けていました。快晴です。台風の接近が危ぶまれていましたが、今のところ大丈夫。すがすがしい気持ちでした。
 おじとは「つま恋まで3キロだけん、歩いて行くかね」と話し、同じように徒歩で向かうらしい人たちについて東に歩き始めました。でも、途中で道を尋ねた数人がUターンを始めたんです。道が違ったのかいな。僕らも駅に戻りました。
 結局、タクシーに変更した人たちが、タクシーを捕まえやすい南口にバックしようとしたのでした。南口には数人がいました。「なぁんだ。だったら、もうタクシーにしよう」。
 夫婦2人連れと、男性1人の計5人がタクシー乗り場に並びました。その夫婦は、東京からの参加で、北海道と沖縄以外、拓郎さんを追っかけているそうです。もう一人の男性も拓郎ファン。タクシー待ちの間、過去の拓郎さんのコンサートでのエピソードを聞かせてくれました。そうこうするうちに、かぐや姫ふるさとLIVEのTシャツを着た女性たち5人の集団が後に並びました。ちょっとうれしかったな。
 この時、この掛川市というところの印象を悪くする光景を目にしました。朝が早いということもあって、しかもビッグイベントがあるためタクシーが不足しているのは承知していました。でも、20分ほど待って、南口のロータリーに入るタクシーを見て、やっと来た、と心を躍らせたのですが、タクシー乗り場に回る前に、その近くにいた人たちがタクシーを拾って乗り込んで行っちゃいました。そんな人たちが4組くらいいましたか。僕らは大ブーイング゙です。
 結局、40分待ってようやくめぐってきました。僕らを乗せてくれた運転手さんに、その「割り込み」のことを話し、「掛川のイメージ悪いですよ」と愚痴をこぼしちゃいました。運転手さんは「たぶん、予約されていたか、この乗り場を使えないタクシー会社が数社あるから、その車をつかまえたんでしょう」。そんなことは他所から来た僕らにはわかりません。関係ないですよ。と憤慨の言葉を並べてしまいました。安来のおじは、別に気にならないらしく、平常心でしたが、僕は怒りは収まりませんでした。天候は青空が出て快適でしたが…。

 【寝台列車】(2006.9.22、pm19:20ごろ)
 うん十年ぶりの寝台列車に不安を覚えながら、徒歩でJR松江駅に到着。コンビニで列車の中で飲む麦酒を2本とつまみを買い出ししてプラットホームに。中学生くらいの娘さんと母親が待つ姿が目に付いた。東京にでも遊びに行くのだろう。間もなく、サンライズ出雲がホームに滑り込んできた。一番安いけど、一応個室で、自分の指定寝台に入った。なんだかワクワクしてきた。
 10分ほどで、安来節で有名な安来駅に停車。列車が動き出すころに、安来のおじが車付きのバッグを引いて指定の列車に入り込んできた。たばこを吸いに行くおじについて、麦酒を片手に喫煙コーナーに行き、のどを潤した。2人ともに心はあすのつま恋。このときに、小学生のころの修学旅行か何かの気分を思い起こしちゃいました。 あすは午前4時半過ぎに静岡駅に着くため、互いに起こし合うことを確認して午後10時過ぎには就寝することにしました。
 それからが大変。寝る前に、もう1本の麦酒を飲もうとして開けて、毛布をかけようとした瞬間、缶ビールに当たってひっくり返っちゃいました(汗)。敷き布団に少しこぼれちゃいまして、慌ててタオルで拭く始末。ごめんなさいJRさん。早めの睡眠に入ろうとしたら、会社の同僚から携帯に電話が。着信の名前を見て動揺しました。「えっ!? こいつ、何かあったのか。参ったなぁ」と心でつぶやき、いやな予感。「きょう話していた人、何ていう名前でしたっけ。今、彼のことで盛り上がって…」とそいつ。おいおい、頼むよ。でも、まぁ、帰れという電話でなくてホッと胸をなで下ろしました。ホッ。それからようやく深い眠りに落ちました。やれやれ。

 
【立ち寄り】(2006.9.22、pm18:00過ぎ)

 とりあえずタクシーでJR松江駅に向かいました。つま恋までの交通手段は寝台列車「サンライズ出雲」ですが、食堂車も売店もない。安来のおじは安来駅から乗り込んで来るのです。腹ごしらえのため、駅近くの伊勢宮町でタクシーを下車。飲食街の一角にある焼き鳥「友遊」の暖簾をくぐりました。
 店内には常時、拓郎さんの歌が流れています。ここのマスターは、息子とともに拓郎さんファンとして有名。拓郎さん本人とも会われているし、岡本おさみさんが店に寄られています。仕事が落ち着くと、リクエストにこたえて拓郎さんの歌を歌ってくれます。
 しかし、残念ながらマスター親子はつま恋に行けず留守番。店内には「公式記録BOX」のポスターが目立つように飾られていました。しいたけや鶏肉の食材を串に通しておいしく焼いてくれ、生ビールと芋焼酎で晩酌。
 カウンターに、地元テレビ局のNさんの姿が。僕には気付いていません。待ち合わせた人は仕事関係の方のようです。僕らが中学生のころ、ラジオ番組のパーソナリティーだった方で今は重役になられています。Nさんは「こうせつさんと同い年…」とか「あのころの歌はいいねぇ」とフォークソングやかぐや姫を懐かしむ会話が聞こえました。僕もほろ酔い気分になり、かぐや姫の話を肴につま恋の前夜祭を1人で楽しみました。
 時計は午後7時を回りました。あと30分で発車です。「マスター、行ってきます」。駅に向かいました。


 【相方】(2006.8)
 
 今年3月に、つま恋のチケットを申し込む。もともと女房と行く予定でした。ただ、長男、次男が家にいないことは分かっていたので、中3の娘が一人になることが問題でした。その心配の前に、仕事の関係で行けるかどうかが最大の課題でしたので。
 直前になった8月中旬。やはり娘を置いて行くわけにはいかないため、女房は参加を断念。だれかに譲るか、チケットは記念にとっておくかを考えましたが、さすがに女房から「15,000円だけん、何とかして」。息子への仕送りで大変なのは事実。やはり、行きたい人の手に渡るのがベストと考えました。
 その候補にすぐ浮かんだのが、某さん。早速、携帯で連絡をした。「つま恋に行きませんか」。スケジュールを確認して返事をするとのこと。
 その人とは、FM山陰の番組「レトロ本舗」のパーソナリティーの安来のおじです。安来弁(一般的には出雲弁です)で話すのが人気で、認知度も抜群。70年代、80年代の音楽に明るく、自称「シンガーソング100円ライター」のミュージシャンです。かぐや姫ファンの一人でもあり、6年前にその番組企画で、山田パンダさんと同じステージに立った経歴の持ち主です。かぐや姫をコピーして楽しんでいらっしゃいます。今度、某有名ミュージシャンとシークレットライブを敢行するそうで、楽しみです。
 数日後にOKの返事がかえってきました。「一緒に行かせてくれませんか」と安来のおじ。どうせ行くなら、共鳴する人と、感動をともに味わいたいと思っていたので、僕も大喜び。行く楽しみが倍増しました。早速、JRの切符を2人分購入し、会場で使う簡易型のいすもネットで2枚購入し、準備万端。

 【出発】(2006.9.22 pm18:00)

 夢のつま恋開催を迎えた9月初め。行けるかどうか。新しい職場に移って8ヶ月で、慣れないだけに休みの具合も分からず、ずぅっと仕事が気になっていました。
 僕が担当する毎年恒例の会議開催日は、昨年を例にとると今年の場合はなんと9月23日だったのです。まずい…。でも、運よくその1週間前に開くことになり、ひとまず第一関門はクリア。関連する仕事がスムースに進まず、やきもきしながらその日を待ちましたが、実は仕事に気が行ってしまっていて、つま恋どころではなかったんです。出発する当日夕方4時ごろに仕事がようやく片付き、つま恋モードになりました。
 その朝に念のため上司に「きょうは、つま恋に向かいます。定時に退社しますので、よろしくお願いします」と一言。「そうだったな。早めに出ろ」と理解を示してくれました。仕事は厳しいが、アソビにも理解を示してくれる方です(と僕は思っています)。
 その上司は会議に臨んでいたのですが、電話で「お先です」とあいさつをすると「気をつけて行けよ」とやさしく送り出してくれました。その上司もフォーク世代で、拓郎さん、かぐや姫のファンでもあります。特に正やんが大好きです。
 会社から直で出発するため、あらかじめ持参しておいたチノクロスのパンツとポロシャツに着替え、バッグを背負ってエレベーターに。会社の同僚と顔を合わせることなく、無事にビルの外に。花金の勤務時間を終えているとはいえ、同僚に会うのはためらわれたのです。深夜まで仕事に追われる人も多いので。
 午後6時前、会社の下で拾ったタクシーはJR松江駅に向かって走り出しました。