こんな場合、あなたならどうしますか?

分譲マンションに暴力団事務所が設置された場合の対応

自分が住んでいる街の中心部にある分譲マンションに、人相や素行のよくない若い男性の出入りが繁くなり、調べたところ、マンションの一つが暴力団の組事務所になっている疑いが強くなった。本当に暴力団の組事務所が設置されたものであれば、マンション居住者のみならず付近の住民にとっても迷惑この上もないし、子供への悪影響や将来への不安もあるので、何とかその暴力団事務所を撤去させたいが、その方策について知りたい。


1.暴力団事務所は、組の活動拠点でありしかも対立抗争事件では要塞化し、中枢基地となる。
もともと、暴力団の組事務所は、組の勢力を誇示し、他の暴力団や一般市民に対してまでも威圧を加えることを一つの目的として開設し使用していました。したがって、以前はほとんどの組事務所が繁華街など人目に付き易い場所に設置され、○○組とか××組などの組の名前入りの大きな看板や代紋を掲げ、事務所内には組員の序列に従って名札を掲げたり、その組織の組長や上部組織の組長の大きな写真を飾ったりしていました。
ところが、平成4年に「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(いわゆる暴対法)」が施行され、それ以降は、社会の暴力排除気運の昂まりもあって、こうした形態の組事務所はほとんど姿を消し、むしろ、その存在をカモフラージュするものが多くなってきていますが、組事務所そのものが無くなったわけではありません。
というのも、組事務所は本来、平素における組員の活動拠点であって、しかも、組員に対する指揮、命令、連絡のための重要な場所で、暴力団にとっては無くてはならないものであるからです。
また、組事務所は、暴力団の宿命ともなっている対立抗争事件等の緊急時に際しては、相手方に対する攻撃、防御の中枢基地を兼ねさせる目的もあって、最近では、密室性が高く、組事務所としてカモフラージュが容易でしかも建物が堅固で相手方の攻撃に対しても防御し易いマンションを使用する例が多くなってきています。


2.マンション居住者の意思の疎通と統一を図り早急な実態調査に着手する。
設問の場合、それが本当に暴力団の組事務所であった場合には、後日対立抗争事件に巻き込まれるなど、大きな災となってマンション居住者に跳ね返ってくることは明らかであります。また、これから先、日常生活にも大きな危険性が生じ多大な迷惑を蒙るおそれが多分に予測されます。
こうした災の根は、早く断ち切ることが肝心です。
そのためには、マンション居住者がお互いに協力し合い、皆んなが心をひとつに一致団結して、逸早く立ち上ることが重要です。
そして、先ずその第1着手として、果たして暴力団事務所となっているか否か、その事実関係を調査し明らかにする必要があります。
また、すでにマンション居住者に迷惑になるような行為が行われている事実があれば、その実態を詳細に調査し記録化するとともに、じ後も、相手方の行動監視を継続的に行い、不法行為の逐一を詳細に把握して行く必要があります。
こうした活動が、次に採る手続にとって非常に役立つことになるわけです。
ところで、そもそも暴力団が分譲マンションに拠点を置こうとする場合に、初めからその意図を明らかにして分譲を受けたり、賃貸借契約を結ぶ例はなく、契約主体や目的を偽ってする場合がほとんどです。
そのため、こうした事実関係の実態調査を始めたとしても、容易にその実態がつかめない場合が多く、また、暴力団事務所となっていることが確実視されるに至ったとしても、その暴力団名を特定することが困難な場合もあります。
したがって、こうした事実関係を調査しようとする場合には、あらかじめ警察の協力を求め、あるいはこうした問題の相談業務を担当している(財)島根県暴力追放県民センター(各都道府県に一つ宛設けられています。)によく相談してから始めることも重要なことです。


3.暴力団事務所に使用されていることが明らかになれば、マンション法に基づき対処することを考える。
分譲マンション等の区分所有という新しい所有形態に対処するために制定された「建物の区分所有等に関する法律(通称、マンション法)」という法律がありますが、このマンション法第6条では、分譲マンション(区分建物)の区分所有者および占有者(区分所有者からその専有部分を貸借等している者)が、建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関し、区分所有者の共同利益に反する行為をしてはならないことを定め、同法第57条から第60条では、この第6条に違反する行為があったものに対する必要な措置をとることができることを規定しています。
まず、第57条では、区分所有者および占有者が、例えば、共有部分において落書き、破壊、あるいは専有部分の不当な改造など、「建物保存に有害な行為」をし、またはその虞れがある場合や、例えば、騒音、通行妨害、暴力行為、管理費の不払い、共同駐車場の不当使用など、「建物の管理または使用に関し共同の利益に反する行為」をし、またはその虞れがある場合には、その違反行為の差止め、結果の除去、あるいは予防措置の請求をすることができることとし、区分所有者の議決権の過半数の同意に基づく「集会の決議」によって、その違法行為者に対し、訴訟を提起することができることを定めています。
さらに、法第58条では、その違法行為による共同生活上の障害が著しいため、法第57条に基づく請求の訴えだけでは、その障害を除去して、共用部分の利益の確保、その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難な場合には、「集会の決議」に基づき、一定の期間、その区分所有者の専有部分の使用禁止の訴えを起すことができることを定めています。
ただし、この集会の決議にあたっては、当の区分所有者に弁明の機会を与えることが必要であり、また、議決権の4分の3以上の同意を必要としています。
また、法第59条では、「区分所有権の競売の請求」について定め、区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によっては、その障害を除去して共有部分の利用の確保、その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、法第58条と同様に当の区分所有者に弁明の機会を与えた上、議決権の4分の3以上の同意に基づく「集会の議決」によって、当の区分所有者の区分所有権と敷地利用権の競売請求の訴えを起すことができることを定めています。
なおまた、法第60条では、「占有者に対する引渡し請求」の訴えを起すことができることも定めています。
以上の通りですが、この法律によって、分譲マンションに入居した暴力団に対抗できるのは、当の暴力団が建物の保存や共同生活の利益に反する行為を現実に行いまたは行う虞れのある場合であって、そうした状況があれば分譲マンションから暴力団組事務所を追い出すことも、法的には充分可能となっています。


4.弁護士と相談し、仮処分で対応する方途も考慮する。
前項で説明したマンション法に基づいて、暴力団の不法行為を阻止し、ひいては暴力団組事務所を追い出すためには、裁判所によって、その請求を認める判決が下されて初めて可能となるわけですが、このマンション法を的確に活用し勝訴して行くためには、どうしても、専門家である弁護士の支援を受けることが必要と認められます。
また、分譲マンションに暴力団が入居し、組事務所として使用を始め、区分所有者の共同生活に対する脅威が差し迫っている場合や、現実に平穏な共同生活が侵害を受けている場合には、マンション法に基づく訴訟の結果を待ってばかりは居られないこともあります。
こうした場合には、例えば、組事務所としての使用禁止の仮処分の申請で対処することも必要となってきます。その他、占有移転禁止の仮処分、処分禁止仮処分など状況に応じて適時適切な仮処分で対応して行くことも必要となってきます。
こうした仮処分の申請にあたっても、仮処分の内容の決定やその申請手続、あるいは、専用部分が暴力団組事務所として使用されていることの事実の疎明など、いろいろと専門的知識が必要となりますので、その道の専門家である弁護士に依頼することが必要と考えられます。
なお、暴対法では、暴力団の抗争事件に際し、一定期間当の組事務所の使用を制限することができることとなっていますが、この法律に基づいて暴力団組事務所そのものを追い出すことはできません。


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