こんな場合、あなたならどうしますか?

労災事故の示談交渉を暴力団員に依頼

工事現場での労災事故で右足を骨折し働けなくなり困っていたところ、以前から面識のある暴力団員がその事故を聞きつけたとみえ、「俺がうまい具合に話をつけてやる、まかせろ」と言ってきた。
こうした事故の示談交渉など、もともと不得手であり、いっそのことその暴力団員に交渉を依頼したらどうかと思い惑っている。


1.暴対法の禁止規定に抵触するおそれがある。
「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(暴対法)第10条第1項は、「何人も、指定暴力団員に対し、暴力的要求行為をすることを要求し、依頼し、又は唆してはならない」と定めています。
ここで規定するところの、「暴力的要求行為」とは何かということですが、その意義、内容については、暴対法第9条第1項各号に指定暴力団員の禁止行為として定められています。
それを見ますと、同条第1項第13号では、指定暴力団員が設問のような示談交渉を、報酬を得るか報酬を得ることを目的として行うことを暴力的要求行為の一類型として禁止しています。
従って、指定暴力団員に対して、何らかの報酬を与え、または与える約束の下に設問のような示談交渉を依頼することは、まさに、暴対法第10条第1項が何人に対しても禁止している暴力的要求行為を依頼する行為に該当し、この禁止規定に抵触することになります。
勿論、依頼を受けて、労災事故の示談交渉に当った指定暴力団員も、前記の暴対法第9条第1項第13号に違反することとなります。
その上、指定暴力団員に示談交渉をさせている事実が判れば、公安委員会から「再発防止命令」が発出され(暴対法第12条第1項)そうした依頼行為を止めるよう警告を受けるはめとなります。
そしてなお、その再発防止命令を無視することになりますと、今度は1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられることになってしまいます。(暴対法第46条第1項第1号)
以上の通りですが、設問の相手方暴力団員が指定暴力団員でない場合は、残念ながら特別の場合を除いては、暴対法の適用はありません。
しかしながら、暴対法の適用があるなしにかかわらず、また、相手方が指定暴力団員であろうとなかろうと、健全な社会人として、暴力団員を、自分の利益を図るために利用するようなことが絶対にあってはなりません。


2.場合によっては、刑法その他の刑罰法令に触れるおそれがある。
設問の場合の相手方暴力団員が指定暴力団員であるか否かにかかわらず、例えば、示談交渉の過程で、彼らの常套手段である暴行、脅迫行為が行われ、当の暴力団員が、刑法の暴行、脅迫、恐喝罪や暴力行為等処罰に関する法律違反などに問われることがあれば、示談交渉を依頼した者も、その共犯者として、刑事責任を追及されるおそれが多分にあります。
暴力団員は「集団の威力」を背景にして、暴力で事を解決することを常習としていることからしても、相手方暴力団員が指定暴力団員であると否とにかかわらず、彼らに示談交渉を依頼することは、結果として自分自身を何らかの刑罰法令に触れる危険にさらしてしまうことになるわけです。


3.社会的信用を失い、「命取り」となりかねない。
これまで、社会のあちこちで、自己の利益を図るために、暴力団を利用する事例が数多く見受けられました。また、それによって暴力団は多額の収入を得、結果として暴力団をのさばらせる1つの大きな原因ともなっていました。
そうしたことから、1.で述べたように、暴対法では、何人も暴力団員(この場合は指定暴力団員ですが)を利用することを固く禁止したわけです。
こうした、法律の規定を待つまでもなく、もともと暴力団は、違法行為をこととする反社会集団であり、そうした反社会集団を自己の利益を図るために利用することは、反社会的な有害行為として糾弾されなければならないものです。
現今のように、市民の暴排意識が高まってきている中で、暴力団員に示談交渉を依頼したことが公になれば、おそらく、社会的信用を一挙に失ってしまうことは疑いを入れないところであります。そればかりではなく、結局のところ暴力団を利用したがために、彼らに骨の髄までしゃぶられて、全てを失い、そのことが「命取り」になってしまうことも、これまでの数多くの事例が如実に示しています。


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