暴力団ミニ講座

11) 私刑(リンチ)
暴力団は、一見強固な組織集団のようでありながら、その内実は、集団の内外から絶えずその集団の存続を脅かす危険な要因を抱えており、脆弱さを秘めています。

その1つが、暴力団社会の特性に由来するもので、暴力団社会は食うか食われるかの弱肉強食の社会であり、常に他集団から縄張り等をめぐり攻撃される危険性にさらされているということです。
その2つが、警察からの取締りという、暴力団にとってはより大きな危惧が待ち受けているということです。
その3つが、社会の暴排意識の昂りによって、暴排運動の荒浪みが絶えず押し寄せ、日常生活や活動の場がせばめられているということです。
その4つが、もともと暴力団は、法治国家にそぐわない不法行為を企図する者の集団であるだけに、その集団内において、親分や組織に対する反抗や裏切り行為、あるいは子分相互間の反目などという親分の支配や集団の一体性を乱すような行為が、反履して発生するということです。

そこで、暴力団社会では、こうした内外からの脅威を排除し、組織の団結と連帯を維持して行くために、暴力団の内部規律「掟」に背いた者に対して、一般社会では考えられない特別な制裁を加えることによって、組織の維持、統制を図っています。

その代表的なものとして、私刑(リンチ)、断指(指ツメ、エンコヅメ、私刑の典型)、破門等がありますが、本項では先ず私刑(リンチ)について説明します。
私刑(リンチ)というのは、暴力団の「掟」に違反した者に対する私的制裁で、彼らは、この制裁を果すことを一言で「ヤキを入れる」という言い方をします。
すでに説明しましたように、暴力団の「掟」といってもそれは成文化したものではなく、要するに親分や組織に対する反抗や裏切りとみなされる一切の行為が、「掟」に反する行為となるわけです。
具体的には、「他の組員の女に手を出した」、「警察に密告した」、「仲間喧嘩をした」、「組の金を持ち逃げした」等実に様々です。
こうした、「掟」に背いた者に対しては、その内容程度に応じて、肉体的苦痛を伴う制裁を加えるわけですが、この私刑(リンチ)は、本人に対する制裁ばかりでなく、他の組員に対する見せしめという意味合いも含まれていますので、極めて残忍な方法で行われる場合が少なくなく、時には死に到らせる場合もあります。
私刑(リンチ)は、まさに暴力による恐怖の統制の典型的なものです。

この私刑(リンチ)の例としては、次のようなものがあります。

・「木刀を背負わせる」
親分の命令に服従しなかったり、その他の「掟」違反に対して、親分や兄貴株の者が殴ったり、頭髪を剃ってクリクリ坊主にしたり、眉を剃り落としたりするなどの制裁を行うことをいいます。
これはいわば、日常的な命令違反に対する制裁です。
・「指ツメ・エンコヅメ」
より大きな対外的な不始末で当人が改悛の情を持っているときに、当人に責任を取らせるのと同時に、他の者の見せしめを兼ねて指を切り落とさせるものです。(これについては項を改め説明します。)
・「ヒトマワリ」
対外的な問題、例えば、他団体の組員と喧嘩をしたり、一般人を傷つけた等の問題を起こした場合、「ひとまわりして来い」と命じて、一定期間組織から追放する制裁です。
これは、別項で説明する「破門」ほど重大でなく、問題行為が本質的に親分の意に背いたものでもなく、いわば当人の失敗に属する場合の処分で、通常は親分が行先を指定し、添書を一本持たせて、短ければ3ケ月、長ければ1年か2年廻ってくるものとされているものです。
最近では、警察の追求の目を晦すための偽装追放を行うような場合もあります。


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